No. 201808
人はパンだけで生きるのではない
さて、イエスは、悪魔の試みを受けるため、御霊に導かれて荒野に上って行かれた。そして、四十日四十夜断食したあとで、空腹を覚えられた。すると、試みる者が近づいて来て言った。「あなたが神の子なら、この石がパンになるように、命じなさい。」イエスは答えて言われた。「『人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる。』と書いてある。」(マタイの福音書4章1-4節)
このことばはルカの福音書4章4節にも書かれています。
イエスはヨハネのバプテスマをお受けになってから荒野に行かれ40日40夜、断食をなさいました。
そこでイエスは、旧約聖書の教えを引用することによって、試みる者の誘惑を退けられました。その時イエスが引用なさったのは、申命記のことばでした。
それで主は、あなたを苦しめ、飢えさせて、あなたも知らず、あなたの先祖たちも知らなかったマナを食べさせられた。それは、人はパンだけで生きるのではない、人は主の口から出るすべてのもので生きる、ということを、あなたにわからせるためであった。(申命記8章3節)
イエスは神に祈るためにあえて断食のために荒野に行かれたのです。30歳になられたイエスは、神の救いの御計画を身をもって人々に伝える歩みを始められるにあたって、神と交わる霊的な備えをするために断食の祈りをされたのです。
40日もの間断食をされたのですから、生身の体をお持ちになるお方がひもじくないわけはありません。けれども、神との霊的な交わりを何よりも大切なこととしておられたのです。
このことばによって、イエスは私たちにも、いつも神のことばに耳を傾けることの大切さを教えておられます。
イエスは「パンが大切ではない」と言っておられるのではありません。空腹な群衆に同情なさって、わずかなパンと魚によって何千人もの群衆を満腹させる奇跡を行なってくださいました。ですからパンは大切です。その他の衣食住も大切です。けれども、人はそれだけが足りていればいいというものではないのです。
衣食住のどのひとつが欠けていても、たとえ生きていけるとしても、正常な生活が成り立ちません。
けれども、私たちはしばしば、それだけが一番大切なものであり、それさえあればいいかのように勘違いして、もっと大切で高貴なものがあることを忘れてしまいがちです。そして、莫大な財を築きながら、あるいは、高い地位と、名誉を得ながら、空しく人生を閉じる人が多いのです。あなたはそうであってはいけません。日々神のことばを読み、心に蓄えていてください。
人間は、体と精神と霊によって成り立っています。体は良い食べ物と適切な運動によって強く育ちます。精神は、見聞きする経験と訓練と思考などによって発達します。恐らくそこまでは人は極めて優れてはいますが、他の高等動物と共通しています。
けれども第三の性質である、霊は人間独特のものであり、他のどんな生き物にもないものです。永遠を思う心を持っていて、神のご性質と共通するものを持っているからです。それは人間だけが持っている性質です。
神はこのように、人をご自身のかたちに創造された。(創世記1章27節)
神はまた、人の心に永遠への思いを与えられた。(伝道の書3章11節)
人は神に似たものとして造られているからです。神は霊であり神に似たものとして造られている人間も霊的な性質を持っています。そして、その霊的な性質は神を求め神との交わりを持つことを必要としているのです。
ですから、私たち人間は、衣食住が足りるだけでは満足しないし、それだけを追求する生涯であっては空しいのです。
戦後の食糧難の中を貧しい生活を強いられていた私は、当時教員だった父が、子どもだった私たちに「たとえ貧乏をしていても心まで貧しくなるな」と諭していました。けれども当時の父は、それ以上のことを私たちに教えることはできませんでした。父は60才になって、やっとイエス・キリストを受け入れてクリスチャンになったのです。ですからイエスのこのことばを読むたびに、父があの時イエスのことばを知っていたら、どんなに良かっただろうと思います。
旧約時代の人々にとって、パンには特別な意味があります。大切な食料ということだけではありません。
イスラエルの人々は、エジプトを出て荒野を旅する40年の間、毎日露のように天から降りて来る不思議な食べ物だったマナによって生き延びていたのです。彼らはそれを天からのパンと呼び、神の憐れみによって、生かされてきたことを忘れないようにしました。
私たちの肉体と精神と霊の性質が調和して養われることが大切ですが、特に現代の私たちは霊的な未熟さが起こりやすくなっています。医学が進歩して体のことが良く分かってきたために、平均寿命もかつての倍くらいにまで伸びています。また、知性や文化的にも発達してきました。学問や技術が極度に発達してきたために、私たちの知恵で全てのことを支配できるかのように勘違いしています。
「人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる。」
のです。私たちの円満で健やかな人生のために、さらに永遠への思いを満たすために、日々神のことばに親しみましょう。